「賀茂くん!」


 賀茂くんと一つ目小僧振り返った。泣き顔で駆け寄ってきた一つ目小僧は私の腰に抱きついた。


 「何やってるの!」

 「丁度良かった。何か食べ物もってないか」


 予想していなかった質問に「へ?」と目を瞬かせた。

 スクールバックのポケットに、昼休みに詩子から貰った小分けのクッキーが入っていることを思いだす。それを差し出すと賀茂くんは無言で受け取って、そのまま一つ目小僧に差し出した。一つ目小僧はおびえながらもそれを受け取る。


 「いいか、もう供え物には手を出すな。あれは神仏に差し上げるものだ。今度やったら祓う」


 ひっと息を飲んだ一つ目小僧はこくこくと頷くと逃げるように走って行く。呆気にとられながらその背中を見送った。


 「あの、賀茂くん……」

 「無害だと判断したから注意のみで止めただけだ」


 私が問うまでもなくそう言い切った賀茂くんはくるりと背を向けてまた歩き始める。


 「なんじゃ、妖を祓わなかったぞ、変わった祓い屋じゃ」


 私の影からひょっこり顔を出したからかさ小僧が、怪訝な顔でそう言った。


 「そうかな」


 彼の耳がほんのり赤くなっているのに気が付き、思わず笑みが零れた。