その日の放課後、詩子と最寄り駅で別れてからゆっくりと社へ向かって歩いていると、からかさ小僧に出会った。和傘の柄の部分が一本足になっている有名な妖だ。


 「結守の巫女さま、つつがなくお過ごしか」

 「こんばんは、からかさ小僧」


 目線を合わせて挨拶すると、傘に付いた一つ目がにっこりと細くなる。


 「妖の時間ではまだ随分と早いけれど、用事でもあるの?」


 歩き始めた私の隣をぴょんぴょんと跳ねながらついてくるからかさ小僧に尋ねる。


 「近頃、祓い屋が夜中に町を徘徊しておるのじゃ。恐ろしゅうておちおち参拝にも行けまい。だからこうして早い時間に社へ向かっておるのじゃ」


 ああ怖い怖い、と短い両手で体を抱きしめたからかさ小僧。

 彼の言う「祓い屋」に心当たりのある私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


 「平和だったおもてらの土地が恋しゅうてならん」


 不服そうな顔でそう言ったからかさ小僧を宥めながら歩いていると、前方に人影が見えた。近付いていくにつれ、その背中が丁度話題に上がっていた人物であることに気が付く。

 からかさ小僧は何かを感じ取ったらしく「それみろ噂をすれば祓い屋じゃ!」と悲鳴を上げて私の背中に隠れた。

 辻地蔵の御堂の前で彼は足元を見下ろしていた。御堂の前で蹲っている一つ目小僧の姿に気が付きはっと息を飲んだ。

 私が勢いよく走り出すと、からかさ小僧は小さな悲鳴をあげながら慌ててついてくる。