「あ、雪子。お前また全然飯食ってないじゃん。ちゃんと食えよ、体弱いんだから」


 雪ちゃんの頭に顎を乗せたその男の子は、「そのからあげちょーだい」と口をあける。雪ちゃんはいつもよりも嬉しそうににこにこと笑っていた。

 雪ちゃんとは小学校から同じの、幼馴染の富岡蛍助くん。クラスの中心でいつも周りを巻き込んで楽しそうに笑っているお調子者だ。


 「蛍助がまた松倉さんにちょっかい出してる~」


 クラスの誰かがそう言うと、富岡くんは「ばか、雪子の世話焼いてんだよ!」とすかさず返して笑いを誘った。

 他の男の子が富岡くんの名前を呼んだ。昼休みが終わるまでサッカーをするらしい。


 「じゃ、ふたりとも雪子のこと頼むわ」

 「はいはい、オカンは大変だね」


 呆れたように肩を竦めた詩子がそう言う。


 「そうなの! この子ったら朝は自分で起きないし、ほんと手のかかる子なのよお」


 悪ノリした富岡くんが体をくねくねさせながら、そこらにいそうなおばさんのような立ち振る舞いでそう言う。とうとう堪えきれなくなってぶはっと吹き出した。

 待ちくたびれたのか、「蛍助先行くからな!」と叫んでばたばたと教室を出て行った。


 「うわ、やべ。んじゃな」


 手をひらひらさせた富岡くんは慌てて教室を出て行った。