「詩子、雪ちゃん、お昼食べよ」
昼休みを告げるチャイムが鳴ると、いそいそとお弁当の袋を下げてふたりに声をかけた。
「食べよ食べよ、もう腹ペコ」
がたがたと机を動かした詩子は疲れたように息を吐く。後ろの席の雪ちゃんは、そんな様子をにこにこと見守りながら同じようにして机を合わせた。
近くの席から椅子を借りて、お弁当箱を広げた。
五月の半ばに入った。桜はすっかり散ってしまい、日の高いうちは上着が必要ないくらいに暖かい日が続いている。制服も徐々に馴染んできて、教室の雰囲気も随分と打ち解けていた。
私にも、親しい友人がひとり増えた。松倉雪子、通称雪ちゃんは選択科目が被ったことで仲良くなったのだ。お人形さんみたいな大きな目に白い肌で、いつもにこにこしている雪ちゃんはクラスの男の子たちからもたくさんの好意を寄せられているみたいだ。
ただ少しおっとりで天然な所があり、詩子は「雪子は黙っていればお人形さんみたいに可愛いのに」といつも残念そうに言っている。
そんな雪ちゃんと詩子と三人で、他愛もない話をしながらお弁当を食べるのが最近の楽しみなのだ。