「かげぬい、怪鳥のかげぬい。木陰を縫うように空を飛び回る、自由な妖」


 おばあさんは身を乗り出して手を伸ばした。かげぬいの頬に触れる。かげぬいは壊れ物を扱うようにその手を上から包み込んだ。


 「待っていました、あの木の上で」

 「ああ、随分と待たせてしまったのね……」

 「いいえ、昨日のことのようです。妖の一生は長い」


 おばあさんは反対の手で自分の目じりを拭った。


 「お互いに、年を取りましたね」

 「ええ……そうね」

 「でも貴方の瞳は変わらない。太陽のように輝いている。あの頃の私を照らしてくれた瞳のままだ」

 「かげぬいは変わったわね。随分と優しくなったわ」


 かげぬいは苦笑いを浮かべた。


 「また、貴女を描いてもいいかしら」

 「────今度は私が会いに来ます」


 強く頷いてそう言ったかげぬい。その瞳は水面のようにきらきらと輝いていた。

 ふと、賀茂くんがすっかり力を抜いているのに気が付いた。恐る恐る腕を解く。賀茂くんは戸惑うように眉根をよせて目を伏せた。彼の前に回り込んだ。どうしてもちゃんとつたえたいことだったから。