「かげぬい、これが結界?」
「ええ、そうです。今巫女さまが触れておられる物が」
湧き水のように澄み切った水に触れているような感覚だった。清らかで、穢れのないものだ。
すぐにこれを破るのは無理だろうと察しがついた。
「あの、巫女さま。申し上げにくいのですが、三門さまでもこれを破るのは苦戦なさるかと……」
「そう、だよね。ああ、“どこかに穴が開いていたりしないかな“」
そう呟いたその瞬間、背筋がぞわりとしてお腹の底がかっと熱くなった。突然の変化に小さな悲鳴を上げる。その場に尻もちを付いた。
かげぬいが驚いたように宙を見たまま固まっている。
「……驚いた、巫女さまは底知れぬ力をお持ちのようだ」
「え?」
かげぬいは私に手を差しだして立ち上がらせた。そして宙を指さして見せる。
「穴が、開きました」
「あ、開いたの? どうして急に……。でも幸運だ、かげぬい、そこから入れそう?」
かげぬいは一つ頷いた。そして頭を下げて身をかがめると、トンネルをくぐるようなしぐさで前に進む。
一定の所まで歩いていって、そして状態を起こし振り返った。
「もう大丈夫みたいです」
よし、と小さく拳を作って、急いでかげぬいに追いついた。