賀茂くんの家の近くまで来た。人の姿に化けてもらっているかげぬいは、ふと動きを止める。


 「巫女さま。彼女はあの家にいるんでしょうか」

 「うん、間違っていなければ」


 そう答えると、かげぬいは眉を下げて申し訳なさそうな顔で笑った。


 「では、私はこれ以上近付くことができません」

 「え、どうして」

 「巫女さまはお気づきではないみたいですが、あの屋敷は何十にも魔を避ける結界が貼ってあります」

 「結界……?」

 「薄い膜のようなものです。これより先、悪しきものは入ることができません」


 力なく首を振ったかげぬいに「そんな」と呟く。折角ここまで来て、もうすこしであえるかもしれないというのに。

 諦めたように微笑み、かげぬいは私に頭を下げた。


 「こんな私にまでよくして下さり、ありがとうございました。やはり、結守の巫女さまなんですね」

 「ま、待って。まだ諦めないで。すこしだけ考えさせて」


 かげぬいは目を瞬かせながらもひとつ頷く。

 私は深く息を吐き、静かに目を閉じた。


 「大丈夫、私なら分かる」


 ゆっくりと片腕を前に差し出す。すると手首のあたりに、ひんやりとした感覚を感じた。