「こんばんは、巫女さま。こんな夜中に人の子が出歩くものではありませんよ。ここは鬼門の山」
「ごめんなさい、でもどうしても会わせたい人がいて」
「会わせたい人、ですか」
「そう。見つけたの、かげぬいが待ってる人」
わずかに目が見開かれた。そして戸惑うように視線が揺れる。
「一緒に会いに行こう。ずっと会いたかったんだよね」
「しかし……」
何を迷っているのか、かげぬいは言葉を詰まらせる。かげぬいのくびに両手を添えって、そっと前を向かせる。不安げに瞳が揺れていた。
「きっとユマツヅミさまが下さったご褒美なんだよ。これまで辛くて、悲しくて、孤独な役目を頑張ってきたかげぬいに」
かげぬいの瞳に光が宿る。
「……帰ってきたら、御礼参りに行かなければいけませんね」
「ユマツヅミさまはお酒が好きなんだって」
かげぬいが笑ったような気がした。