「……ある女の子とある妖が、お互いに大切に思っているのに、悲しい出来事がきっかけでばらばらになって会えなくなってしまったの。
でも数十年経って、ふたりはとても近くにいることがわかったの。妖は女の子との約束の場所でずっと待っていて、女の子は傍にいるのに足が悪くてそこから動けなくて。だから私が、せっかく見えた糸を繋げてあげたいの」


 簡単にだが、嘘偽りなく弥太郎に伝えた。膝に向けていた視線をあげると、弥太郎は俯いていた。名前を呼べば、弥太郎の方は小刻みに震えだす。


 「あの、弥太郎……?」

 「……こい」

 「へ?」


 聞き返すと同時に、弥太郎が勢いよく顔をあげた。ボロボロと涙を流し、鼻水を垂らして顔を真っ赤にしている。


 「行ってこい! ここは俺に任せろ、ふたりの恋路を邪魔する奴は、俺が絶対に許さねえっ」


 ぱんっ、と自分の太腿を叩いてそう言いきった弥太郎。嬉しさのあまり彼の手を握り勢いよく振った。


 「ありがとう、ほんとうにありがとうっ」

 「いいってことよ! ほら、さっさと行きな!」


 弥太郎に背を押され、そっと部屋を抜け出した。