二十日前────。
ふと耳に越天楽の笛の音色が届き顔をあげた。教科書から掛け時計に視線を移すと、夜の十一時を指している。すっかり固まった首を回しながら一つ伸びをした。
「麻ちゃん、入るよ」
そう声がかけられて慌てて姿勢を正し返事をする。障子がゆっくりと開いて、お盆を持った三門さんが現れた。
「勉強お疲れさま、夜食持ってきたよ」
「ありがとうございます」
勉強机に使っている机をいそいそと片付ける。机の上に置かれた皿には小さな俵おにぎりが三つ並んでいた。
「根を詰めすぎるのもよくないよ。しっかり眠らないと、頭の中が整理されないからね」
「はい。きりの良い所で休みます」
私の返事に三門さんは満足げに微笑んだ。
昨日から、私は三門さんの家でまたお世話になっている。