「お父さん、私言いましたよね?」
「?」
「あなたの娘は死んだって。」
千晃の言葉に匡祐はそっと千晃の手を握った。千晃の体は小刻みに震えている。
匡祐は千晃と父がそんな話をしていたことを初めて知った。そんな娘の言葉を聞いても、千晃がけがをしていた2週間一度も連絡をよこさなかった千晃の父の気持ちが匡祐には全くわからない。
「未熟な私はあなたからの愛情が欲しかった。ほかの普通の家庭のような愛情はもらえなくても、仕事を頑張ればほめてもらえるかもしれない、言うとおりにしていたら認めてくれるかもしれないと思ってた・・・。でも私が間違っていました。あなたは私の存在すら認めてはいなかった。」
「当然だ。相応の成果を出していないだろう。」
千晃の父は険しい表情のまま千晃を見る。
「きっと私がどんなに頑張っても、どんなに成果を出してもあなたは私を認めてはくれません。私の存在すら否定的で、私は神崎にとってのお荷物でしかない。」
「お言葉ですが、千晃さんの代表を務めている会社の業績は各業界でも認められています。もちろん神崎ブランドという付加価値もあるかもしれません。しかし、財閥が生き残るためには厳しい世の中です。財閥の名前が背景にあっても今は必ずしも利益につながるわけじゃない。不景気が続く現代、需要はブランドではなく低コストでいいものを購入したいというニーズが最優先事項です。」
千晃の父は匡祐に視線を移した。