「私はずっとピアノとバイオリンを習ってました。」
「へぇ~。」
「匡祐さんは?」
「俺はそういう楽器はやってなかったな。運動が好きで、特に剣道は有段者だよ?」
「えッ?そうなんですか?」
匡祐が剣道をしているとは知らなかった。
「これでも3段持ってるんだ。今も時々やってる。」
「習っていたんですか?」
「習う金はなかったから、学校の部活でやってた。スポーツ推薦で学費も免除されてたんだ。」
二人はこれまで知らなかったお互いのことを質問し合った。

自分じゃないほかの誰かのことをこんなにも知りたいと思ったのははじめてだった。


「お嬢様。会社に戻る時間です。」
剣持の言葉に千晃が振り向いた。
「あっというまにもうこんな時間か」
匡祐も時計を見た。