いきなり南さんに叱られてびっくりしたけど、言い返す気はなかった。


新海家の嫁という自覚がいまいち足りていなかったのは事実だし。その他にも彼に知られたら叱られそうな隠し事がある。


「あの伊織さまはおられますか？お部屋でしょうか？」


屋敷に着いた途端に伊織さまに会いたいという気持ちが湧いてきた。


しばしの不在を彼はどう思ってるか気がかりだった。


「伊織さまでしたらまだ帰ってきておられません。このところ毎晩帰りが遅くてこちらも困っているんですよ」


「そうなんですか」


伊織さまが不在と聞いてがっくりと肩を落とす。


南さんの愚痴はそれからも続いた。


「本来なら学校から帰られてからも伊織さまにはやることが山ほどあるんですよ。語学や経営の勉強、この家の家長の代理としての仕事もおありです」


「そ、それは忙しそうですね」