奥様にかける優しい声は、先日の私に対する冷たい声色とは全然違っていた。


「ええ、ありがとう」


「明後日のパーティーの料理の件で料理長が相談があるそうで奥様を探しておりましたよ」


「まあ、そうなの?では行ってくるわね」


じゃあねと私を見てニコッと笑った奥様は軽やかな足取りで厨房へ向かって歩いて行った。


奥様ににこりと営業スマイルを向けていた南さんが私に目線を移す。


そして、わざとらしいため息をひとつ吐いた。


「おうこれはこれは、若奥様ではありませんか。また随分遅いお帰りですね」


冷ややかに私を見下ろす彼は嫌味っぽく口の端をあげる。


「は、はあすみません」


「まったく、奥様も伊織さまも若奥様には甘くていらっしゃる。これでは屋敷のものに示しがつきません」


「え、ああっ、すみません」