こんなこと今まで一度もなかったのに。


私は拳を握りしめギュッと目を閉じた。


「あ」

 
その時、突然脳裏に浮かんだのはずっと以前の記憶だった。


いつか、いつだったかもこんな風に平行線の喧嘩を目の当たりにして悲しくなって泣いてしまったことがあったような気がした。


けれど、その記憶はおぼろげで定かではなかった。


それは遠い子供の頃の辛い思い出。


2人が今みたいに伊織さまと私のことで揉めていたのを確かに目にした気がしたんだ。


「ほんとにあなたはイシ頭でわからずやね」


「君が能天気なだけだろ。母親ならもっとしっかりと娘を守らないといけない。
つむぎはまだ、高校生なんだぞ。それを傷モノにされて黙っていられるか」


フッと笑う母を見て父は顔を真っ赤にして怒り頭を抱える。