ううんちがう、彼は近くにいてこうして私の親に必死で頭を下げている。


純粋に私を欲しいと願っているだけの。


ただの男の人だった。


「伊織さま」


夢中で彼の腕にしがみついたら、涙がこみあげてきた。


だけど必死で堪える。


それでも父は黙ったままだったけど、母は立ち上がって、はいって返事を返してくれた。


まるで、自分がプロポーズでもされたみたいに頬を赤らめている母はこの時かなり感動していたらしい。


それからすぐに、私は伊織さまと一緒に病室を後にしたのだった。





「つむぎ、悪かった」


「え、どうしてですか?」


病室を出たら、伊織さまはちょっと申し訳なさげに謝ってきた。


「つむぎのお父さんにはあまりいい顔はされないだろうとは思ってたんだけど、つむぎを微妙な立場にしてしまって」