よかった、今日のところはなんとか乗り切れそう。


仕方なく彼も出て行こうとするけれど、ドアの近くまで行ったところで踵を返した。


その時見た光景を私は生涯忘れないだろう。


「やっぱり、これだけは言わせてください」


彼は腰を折り膝に手をつくようにして、両親へ向かって深く頭を下げた。


「お父さん、お母さん、つむぎさんを僕にください」


その声は熱を帯びたように病室中に響き、そして私の胸を一瞬で焦がした。


「必ず幸せにします」


彼の瞳は真剣で、一点の濁りも感じさせない。


潔いその態度が、この時私の中にある疑いを一瞬で打ち消していた。


だから、私は思わず泣いてしまいそうになった。


彼は遠い人? 


手を伸ばしても届かない、届いてはいけない。


雲の上にいるの?