「伊織さまも、父は今ちょっと混乱しているみたいで。だから、今日のところはもう」


「でも」


来たばかりだけど急いで、伊織さまを連れて出て行こうとして腕を引っ張ったけど、彼は動かなかった。


「伊織さま、行きましょう」


「待って、つむぎ」


伊織さまはここで帰るわけにはいかないという顔をする。


すると見かねた母が助け船をだしてくれた。


「この後お父さんは検査の予約が入ってるんです。伊織さまにはまた改めて退院した後にこちらからご挨拶に伺いますね」


母は申し訳なさそうに伊織さまに謝ると、私にそっと目配せをおくる。


私は頷いてまた伊織さまの腕を引っ張る。


「さ、行きましょう」


「ああ」


ようやく聞き分けてくれたみたいで安堵した。