何度も母親は頭を下げる。そして、泣きながら研究所を後にした。

「ご遺体の身元が判明するかもしれません。亡くなったのは、大野三郎(おおのさぶろう)さん。先ほどこちらに来た大野和美(かずみ)さんのお父さんです。七年前から認知症を患い、××市の介護老人保健施設に入所していたそうです」

正人がそう言い、ホワイトボードに大野三郎の情報を書く。朝子が驚いた。

「××介護老人保健施設って、隣町じゃない!どうしてこの街でひき逃げされたの!?」

「施設側に確認したところ、三郎さんは脱走して職員で探し回っていたところだったそうです。警察に行った和美さんがこの研究所に男性の遺体が運ばれたと聞き、うちに来てくれたわけです」

「あれだけぐちゃぐちゃになってる遺体ですけど、ご遺族に遺体を見せたんですか?」

大河が訊ねると、藍は首を横に振った。

「あまりに凄惨な遺体はご遺族にはお見せしないわ。それは、故人の名誉を守る為でもあるの。この場合は、三郎さんのDNAを提供してもらうことになるわ」