「何なんですか、あの子!!自分の家族が死んだっていうのに……!!」

女子高生が出て行ってすぐ、大河は怒りを吐き出す。朝子と聖も怒りを見せていた。

「ほんとよ〜!いくら会ってなかったって言ってもあれは……」

「故人が可哀想だ」

三人は輪になって女子高生の悪口を言う。藍は、その様子をただ眺めていた。

藍の胸の中にも、確かに怒りは存在している。しかしそれは微かなものだ。この仕事をしていれば、故人のことをこんな風に言う人間はいる。誰もが死を悲しむわけではない。それをわかっているからこそ、藍は感情を抑えられるのだ。

一時間ほどして、部屋に正人とハンカチで涙を拭いながら母親が出て来た。そして、部屋を見た時に「やっぱりいない……」とため息をついた。母親はぺこりと藍たちに頭を下げる。

「娘の花凛(かりん)が失礼なことをしてしまい、申し訳ありません。話は全て聞こえていました。……本当に申し訳ありません」