「びっくりした! ていうか、私が家にいなかったらどうしたのよ。先に電話してくれればよかったのに!」

 織を部屋に招き入れるや否や、織を窘める。
 でも、織は全然気にする素振りもない。

 狭いワンルームの真ん中に立って、部屋を見渡しながら答えた。

「あー、なんていうか、賭け?みたいな」
「なに、それ」

 もう意味がわかんない。今回は私が家にいてよかったというほかに、掃除をしておいてよかったと思った。

 危うく散らかった部屋を見せる羽目になっていたかもしれないもんね。それはいいとして……。

 私は玄関をちらりと見る。そこには、織のスーツケース。

 なんであんなものを持ち歩いているんだろう。
 ホテルを変更でもしたのかな。

 だけどそれなら先に、新しいホテルに荷物を置いてくればよかったのに。

 いろいろと考えを巡らせていると、急にお腹の虫が鳴る。
 いくら織相手とはいえ、なかなか豪快に音が鳴り、私は咄嗟に俯いた。

「これ買ってきたんだけど、一緒に食べよう」

 すると、織が手にしていた袋を私に見せる。ゆっくり顔を上げたとき、視界にお弁当屋さんのロゴが目に入った。

「あ、ありがとう」
「麻結、ここの野菜炒め好きだったよね」
「本当、よく覚えてるね」
「当然」

 私のことをお見通しと言わんばかりに、夕食の材料がまるでないこのタイミングでお弁当を持ってきて、昔からの好物を言い当てる。

 なんとなく、それが織の思いの深さかなって考えて、急に恥ずかしくなってきた。