「さすがに疲れたなあ」

 綺麗になった部屋の真ん中で横たわる。

 今夜はなにを作って食べようか。冷蔵庫の中には、もうなにもなかった気がする。
 買い物行かなきゃだめか……。

 脳内でこの後すべきことをぐるぐる考えるも、一度スイッチをオフにした身体が言うことを聞かない。

 床に転がって動かずにいると、充電したまま放置していたスマホが鳴った。
 ようやく身体を起こし、のそのそとスマホへ向かう。

 ディスプレイに浮かぶ名前を見て、ドキッとした。ひと呼吸おいて、スワイプする。

「は、はい」
『麻結、今家にいる?』

 応答するとすぐに、織は落ち着いた声音で言った。

「え? い、いるけど」
『何号室?』
「は? なんで……」

 織の質問に、『もしかして』と窓に目をやった。窓際に行き、外を見下ろす。

『麻結のアパートの前にいるから』

 織がアパートを見上げた拍子に、ガラス越しに偶然視線がぶつかる。
 織を凝視すると、向こうは笑顔で手をひらひらと振っていた。