満面の笑みで駆け寄ってきたのは、ひとりの外国人女性だった。

「ハンナ!」

 茫然としている私の横で、織が反応を示した。

『ハンナ』とは、おそらくこの女性の名前。私は状況がまだ飲み込めず、ふたりを見る。

「なんでここに」

 この人……どこかで見覚えがあるような……。

「シキのホテルを手配したのは私よ? 同じところにするのが自然でしょ」
「仕事は?」
「ずーっと働き詰めだから、息抜き兼ねて追いかけてきちゃった。あー。日本語久しぶり。せっかくだから練習するわ」
「息抜きって……こっちには一応仕事で来てるんだけど。それに、今回の依頼も日本に行く暇なんかないって断ったのはハンナだろ」

 私は記憶を手繰り寄せながら、女性を見る。

「ちょっとした心変わりよ。わかってるわ。メンズとはいえ、ちゃんとシキの役に立つようにするから」

 そして、彼女がニッと勝気な笑みを浮かべた瞬間、答えが弾き出された。
 同時に、彼女は私に向き合い、手を差し出す。

「あ。はじめまして。あなた……マユ?」
「え。は、はい」
「やっぱり! ワタシはハンナ・シュナイダーです。向こうでシキと一緒に働いてます。よろしく」

 Hanna Schneider(ハンナ・シュナイダー)――〝Sakura〟について調べてネットで画像が出てきた女性だ。

 私はどうにか動揺を隠し、握手を交わす。

 彼女の手に触れた瞬間、胸の中がざわついた。