離れたくない。

 その思いだけで、ついまた織が宿泊しているホテルまでついてきてしまった。

 もちろん、誘ってきたのは織だけど。

 豪華なロビーを、またこうして織と歩くと思わなかった。

「なに?」
「な、なんでもない」

 うっかり穴が開くほど見つめていた自分に気づいて、慌ててそっぽを向く。

 どうしよう。私、ただ隣にいるだけですごくドキドキしてる。
 気持ちを認めた途端、こんなに感情があふれるなんて。

 目のやり場を探していると、腕を掴まれる。

「心配しなくても着替えはまだあるよ」

 ふいに耳の上でささやかれた言葉に、瞬時に顔が熱くなる。

「ばっ、ばか!」
「Salut! Shiki!」

 恥ずかしさのあまり私が織の手を振り払ったとき、フロントのほうから高らかな声が飛んできた。私たちは同時に目を向ける。