私にとってこの仕事は天職だ。好きな仕事だから、楽しくて仕方がない。

 きっかけは四歳のとき。

 幼稚園の学芸会で着たお姫様の衣装に感動して、洋服に興味を持った。
 自分でいろいろとデザインを考えては、お絵かき帳に絵を描いて、いつか洋服を作りたいって思っていた。

 でも小学校高学年になって、授業の家庭科で裁縫をしたときに愕然とした。
 私はあまりにも不器用すぎて、コースターですらうまく手縫いができず、ミシンも何度やってもうまく使いこなせなかった。

 それでも初めはあきらめないで、裁縫が得意な近所の人に習ってみたものの成果は出ず。

 私は自分が洋服を作る人には向いていないとわかり、しばらく落ち込んだ。

 服を作る人になる道は完全に閉ざされた、と思っていたのだが、年齢を重ねるにつれ気持ちは整理され、縁があって〝SPIN〟で働いている。

 一日の仕事をどうにか終え、閉館時間の十五分前に百貨店に滑り込んだ。
 五階のメンズフロアに到着すると、すぐに井野さんの姿が見えた。

「井野さん、お疲れ様です」
「あ、やっと来た」

 エスカレーターを降りてすぐの好条件。これなら、多くの人の目に留まる。

「メンズフロアって、案外来ることないので新鮮ですね。リサーチで見て回るのもやっぱりレディースばっかりになっちゃって」

 私がきょろきょろとして言うと、井野さんは手を止めて私のほうへやってきた。

「瀬越は彼氏にプレゼントとか買いに来ないの?」
「はあ。残念ながらそういうはまったくなくて」
「そうなんだ」

 自分で言ってて落ち込む時期もとっくに過ぎた。
 ずっと仕事ひと筋で来たし、今もなお仕事が恋人っていうことで開き直っている。

 準備中の売り場に着き、足を止める。未完成の店全体を眺めていると、胸が躍る。

「やっぱりゼロから店を作る過程ってドキドキしますね。どんなお店になるんだろう」
「百貨店は客層が広いし、シンプルかつ清潔なイメージで進めてもらってる。もちろん、高級感も」
「うん。〝Sakura〟もハイブランドでシックで大人な印象だし、いいと思いま……」
麻結(まゆ)!」