「麻結に断られるところ」

 小さく答えた織は、ひどく怯えた表情をしていた。同時に、哀憐の情を誘うように瞳を揺らし、私をじっと見る。

「正直、彼を見て俺も他人事じゃないって思って」

 再会した織はすっかり堂々としていて、昔の面影なんてほとんど残っていないと思っていた。

 だから別人のように思えて困惑したわけだけど、やっぱり織は織だ。

 私は、以前の織も大人になった織も、どっちも特別。

 しかし、長年幼なじみだった織に、急に女性としての振る舞いをするのは難しい。
 照れもあるし、元々の恋愛経験もないに等しいから、どう切り出せばいいのか……。

 沈黙が私をいっそう焦らせる。

「私が断ったら、すぐあきらめがつくの?」

 咄嗟に口から出た言葉は、回りくどくて素直じゃないもの。頭の中はパニック状態。
 だけど、それに気づかれるのが恥ずかしくて、懸命に平静を装う。

 次こそ、もっと正直な気持ちを伝えようと考えていた矢先。

「そうだなあ」

 織がぽつりとつぶやいた返答に、頭が真っ白になる。

 どうして、あんなセリフを言ってしまったんだと自分を責め、後悔に打ちひしがれていたら、グイッと腰を引き寄せられる。私は涙目で織を仰ぎ見た。

「簡単にあきらめられないのはわかってる。だったら、やっぱり強引にいくしかない」

 私の両眼には、強い意志を感じさせる織の真剣な顔が映し出されている。
 自分の気持ちを認めたから、まっすぐ織と向き合っていられる。

 今朝まで、ちょっと迫られただけで避けていたせいか、織は逃げようともしない私に困惑した眼差しを向け、不思議そうに聞く。

「麻結……? 抵抗しないと今度こそキスするよ」