会議室を出て、デスクに荷物を取りに戻る。オフィスを出たところで、織が立っている。
 長身でスタイルのいい織は、離れて見ると一段と目立つ。

 織は私を見つけると、極上の笑みを見せた。

「麻結」
「お、お待たせ」

 織の笑った顔ひとつで、心臓が騒ぐ。

 私、これまでどうやって織の隣に並んでいたんだっけ?
 意識しすぎて、自然な振る舞いができない。

 私が下を向いて歩き始めると、織も歩調を合わせる。

「っていうか、先帰っててもよかったのに。ホテル、ここから目と鼻の先じゃない」

 つい素っ気ない言葉を投げかける。すると、織がぴたっと足を止めた。

「……織? どうしたの?」

 今度は織がずっと俯いている。私のほうを見もせず、ずっと動かぬまま。
 織は狼狽える私に向かって、ひとこと放つ。

「あの流れで先に帰れるわけないだろう」

 単調な声に、織の怒りを買ったのかとひどく動揺する。
 しかし、なにを口に出せばいいのか考えもまとまらず、ただ時間が過ぎていく一方。

 項垂れた織を黙って見つめていたら、ふいに彼が掠れ声でつぶやいた。

「さすがにああいう場面を目の当りにしたら、怖くなる」

 一歩、織に近づきふわりと浮いた前髪の隙間から、目を覗き込む。

「ああいう……って?」

 静かに問いかけると、おもむろに織の顔が上を向く。