「織とまったく同じことをやれって言われたら、私だって無理です」

 私が口を挟んで、織と井野さんはふたりして驚いた顔をしてこっちを見る。
 私はその視線に構わず、思ったことを口にする。

「だからって、私は自分を卑下しない。仕事に対する気持ちは、織に負けない」

 確かに、今の織の立場と比べたら、私たちはちっぽけな存在に思えてしまう。

 だけど、知名度や才能がなかったとしても、服への情熱は負けない。
 たとえ、それが幼なじみで有名デザイナーの織が相手だって。

「井野さんも、この仕事好きですよね? 私、井野さんと知り合ってからすごく刺激受けて……目標にしてるんです。そんなふうに投げやりなことを言わないでください」

 私が知っている井野さんは、忙しくても楽しそうに仕事をしている人。
 一緒に仕事をしていて、力をもらえるような存在。

 そんな井野さんの自暴自棄になるところは見たくない。

「ああ……。俺、むきになりすぎてた……情けない」

 苦笑する井野さんは、元の彼に戻った気がした。
 私は肩の力を抜き、織に言った。

「大体、一緒にひとつのものを作っているのに、勝ち負けなんて意味不明だと思う。そうでしょ、織」
「俺はただ、普段人の気持ちもわからないなら、客がどんなものを求めているかなんて、考える余裕もないだろってことを言っただけ」

 織はぷいっと横を向いて、淡々と答える。

 せっかく、ぎこちない空気を修復できそうだっていうのに、こういうところは昔と変わらず、自分本位なんだから。

 私が織をじとっとした目で見ていると、井野さんがぽつりと言う。

「いや。彼の言う通りだ。俺、目の前のことしか見えてなかった……」

 私は改まって、きちんと井野さんと向き合った。

「あの、お気持ちうれしかったです。だけど、ごめんなさい」

 頭を下げて誠心誠意を込めて、返事をした。
 井野さんは、少し元気のない声で「うん」とだけ返してくれた。