それから、私がオフィスに戻ってきたのは夜七時。

 デスクにカバンを置いてスマホを出し、井野さんに電話をかける。

『もしもし。瀬越? 戻ったの?』
「はい、今。どちらに向かえばいいですか?」
『ああ、上の第三会議室に来て』
「わかりました」

 スマホをポケットに入れ、会議室へ足を向ける。

 階段を上って第三会議室のプレートを確認し、ノックした。
 室内から井野さんの返事がきて、ドアを開ける。

「失礼します。お疲れ様です」
「待ってたよ。こっち来て」

 井野さんの手招きに誘われ、中央のテーブルへと近づいていく。
 すると、すぐにテーブル上のものに目を奪われた。

「これっ……!」

 シンプルな黒と白の二種類の服。
 裾にはさりげなく〝M-crash〟のロゴと桜のワンポイントがあった。

「そう。出来上がったんだよ。〝M-crash〟の目玉、〝Sakura〟監修商品が」

 井野さんの声もほとんど耳に入らず、私は夢中で服を見る。

 このトップスは、見た目は凝ったデザインもなく、一見どこにでもあるような服に見える。でも……。

「この袖のロールアップを解けば、当然丈が長くなる。でもそれだけじゃなく、付属の布をボタンで留めれば、さらに伸びる」

 井野さんが服を両手にとって、袖を弄りながら説明する。
 私もそれに続いて、ひとりごとのようにつぶやく。

「脇もさりげなくスナップで止められているのは、デザインとしてだけでなく、ゆったり着たい人のニーズにも応えられるようにって前に聞きました」

 あとは、裾も袖部分と同じように付属の生地を取り付けたら、またさらに印象が変わる。
 自分好みの服を作る商品だ。