今朝のことが勝手に脳内でリプレイされる。

 額にはまだ織の感触が残っている気がする。
 私は信号待ちの間、無意識に額に手を当てた。

 もう……もう! どうして、あんなことをさらっと……。

 そうしてまた初めから思い返しては、発狂したいほどの羞恥を必死に堪える。
 視線を落とした先には、織のデニムシャツ。

 腰に巻くことによって、全身黒という単調な色へのアクセントにもなるし、シルエットに変化もつく。

 腰の位置も高く見せられてメリハリも出るから、スタイルもよりよく見えて、少し大人っぽく見える。

 オフィスに到着し、自席に着く前にロッカーから服を取り出す。
 なにかあったときのために、自社のブランド服をロッカーに入れてある。

 それにしても、着替えを置いておいて今日ほど助かったことはないな……。

 そんなことを思いつつ、着替えを済ませようとトイレへ向かう道すがら、青井さんとばったりと会った。

「瀬越さん、おはよう! 今日の服の雰囲気、ちょっとめずらしいね」

 開口一番に指摘され、ドキリとする。

「そ、そう?」
「うん。シックな感じ! あんまりモノトーンでまとめるイメージなかったから。でも似合うね! しかもこの服、大人っぽいのに可愛い! うちのではないよね? 見たことないもん」
「う、うん」
「やっぱり。どこの服?」
「え、ええと……」

 別に悪いことをしているわけじゃない。
 だけど、織からもらった服だなんて言えないし、アパレル企業に勤めている手前、どこのブランドかわからないなんて答えはありえない。