「世の中にはいろんなコンプレックスを持っている人がいる。俺たちは、そういう人たちに少しでも前向きになってもらえるよう考えるだけだ」

 織はそう話しながら、自分が着ていたデニムシャツをおもむろに脱ぐ。
 Tシャツから覗くたくましい腕に、不覚にもどきっとする。

 今朝、私は気づいたらこの腕をまくらにして眠っていた。
 織の腕の感触、身体の体温、落ち着く香りを思い出す。

 はっと我に返ったとき、織は私へ両手を伸ばしていた。
 織の柔らかな髪が私の頬をくすぐる。咄嗟に、ぎゅっと目を瞑っていた。

 心臓がバクバクいっている。握りしめた手の汗がすごい。

 腰に触れられ、肩を上げた。しかし、想像しているような感覚ではなくて、そっと瞼を開く。
 織は、デニムシャツを私の腰に巻いてくれていただけだった。

「理想の服を着て笑っていた昔の麻結のように、ひとりでも多くの人が笑顔になればいい」

 織は無垢な笑みで言った。

「……うん」

 ひとりで意識していた。だけど、織が前にあんなことを言うから……。

 織の『本気だよ』という文面を思い出し、彼を直視できなくなる。

 すると、俯いた私の額に、織は軽く唇を落とした。

「俺はこれからも、麻結のその表情が見たいんだ」