あるのはメイク道具くらい。アパレル会社に勤めているのに、連日同じ服で出社なんてできない。

「麻結、落ち着いて。服は何着かある。それをあげるから」
「え……?」
「今日はそれでどうにか過ごして」

 織はベッドから降り、キャリーケースからレディースものの服を手に取り、なにやら吟味して私へ手渡す。

「これ……どうしたの?」
「気に入らない?」
「いや、そういうことじゃなくて」

 織は服を作る仕事をしている。だけど、織のブランド〝Sakura〟はオートクチュール専門だと認識してる。

 つまり、行き先のない服は持つことはないはず。だとすれば、これは商品でもなんでもなくて、趣味で作ったものってこと?

「ほら。時間ないんだろう?」

 織の言う通り、ふと浮かんだ疑問を追及している時間などない。

「ほかに足りないものあるなら、俺がコンビニ行って買って来ようか? ここ、二階にコンビニが入ってるって言ってたし。その間、シャワー浴びていれば?」
「いっ、いい! 自分で行ってくる!」

 平然として言われたけれど、あと足りないものと言えば下着くらいのもの。そんなの、いくら織でも頼めるわけない。

 自分の耳が熱いのを感じながら、財布を手に持ってドアへ足を向けた。