〝Sakura〟――それは、フランスで人気を博すアパレルブランド。

 私は数年前、インターネットでそのブランドを見つけたときに衝撃を受けた。

 繊細なデザインと、ひとりひとりに寄り添うパターン。
 オートクチュール専門ということもあって、〝Sakura〟の服は特別感が漂う。

 我が社〝SPIN〟はそんな憧れのブランドと、このたび一緒に仕事ができるようになった。
 井野さんは今年、その新店舗出店を担う開発部に抜擢された。

「そうだよなあ。元は瀬越の企画だもんな。よく行動に移したと思うよ。普通なら、企画を思いついても絶対相手になんかされないかって、実行しないだろ」
「後悔するくらいなら実行する、って私の持論です。失敗ばっかりですけど」

 異例なことで今でも信じられないが、今回の〝Sakura〟の件は、私の発案から始まった。

 わりと小さいころから、私はそんなタイプだったと思う。

 叶わないかもしれないことでも、やらないよりは行動に移したほうが絶対に可能性は上がる。それにかかる時間や労力は全然気にならない。

 『あのとき、ああすればよかった』って思う時間のほうがもったいないもの。

「だって、私〝Sakura〟のファンですし。当たって砕けろだと思って。まさか、こんなことになるとは想像もしなかったですよ」

 理想主義な私はひとめぼれした〝Sakura〟に、どうにかうちに服を作ってもらえないかと、ひたすら考えた。

〝Sakura〟について調べに調べ、そのたび、ますます心を奪われた。

 オートクチュールのみにこだわっているのなら、せめて監修してもらえないかとダメ元でお願いしたら、あっさりOKをもらって驚いた……というのが事の顛末だ。