急がなくてもいいと言われても、どれほど待たせたのか気になるから、急いで帰り支度をする。

 バタバタとビルを出てカフェへ向かいながら、ふと疑問に思う。

 なんでここに私がいるって知っていたんだろう。

 理由はよくわからないけれど、すぐそこに織はいるはず。
 とりあえず、会ってからいろいろと聞けばいい。

〝Sakura〟のことも――。

「ごめんね。いつからいたの?」

 通りに面したカウンター席の端に座っていた織の元へ行き、すぐさま謝る。

「お疲れ様。そんなに待ってないから平気」

 織は私を見るなり目じりを下げ、タブレットケースを閉じた。
 直前に見えた画面には、イラストアプリのようなものでなにかデザインしているような絵があった。

「それ、もしかして一から描いてた? だとしたら、結構待ってたんじゃ……」

 プロのデザイナーだし、ササッと描けるのかもしれないけれど、なんの連絡もせず待たせたのは事実だ。

 申し訳ない気持ちでいると、織はなにも言わずに微笑んだ。
 私は織の優しい顔に、胸が詰まる。

 どうして、織は大事なことを話してくれなかったのかって。

「ねえ、織。どうして、〝Sakura〟のこと教えてくれなかっ……」

 思い切って切り出すや否や、織のすらりとした人差し指が私の唇に触れた。

「あとでゆっくり話すよ。ひとまず、移動しようか。お腹空いただろ?」

 すっかり織のペースに負けて、私は黙って織の後についていった。