あのあと、タイミングよく井野さんは電話で呼び出しがかかり、すぐに別れた。

 まさかあんなことを言われるなんて思ってなかったから、まだ動揺してる。

「瀬越さん、どうかしました?」

 ダンボールから出した商品を手に、ぼんやりとしていた。
 新人スタッフの小林(こばやし)さんに声をかけられ、はっとする。

「あっ。ううん。なんでもない! あ、このパッキン、ストック棚にお願い」
「はーい」

 小林さんはにこやかに返事をし、奥へ行った。
 彼女がいなくなったのを見計らったように、副店長の三柴(みしば)さんが私の隣にやってきた。

「小林さんって、何度言っても作業が雑なんですよねえ。服の畳み方も教えたのにいまいちで、彼女のあと、こっそりまた畳みなおしているんですよ」
「……そうなんだ」
「しかも、店長いるときは忙しいふりして畳まないんですよ。あの店長厳しいから、注意されるのが怖いんですよ、絶対」

 憤慨する三柴さんを横目に、内心ため息をついた。

 私が担当しているのは五店舗。
 その中のひとつが、ここ銀座のファッションビルに入っている店。

 そして、この銀座店のスタッフが春からうまくいっていなく、今一番の悩みの種だ。