カラフルなトップス、ふわりと揺れるワンピース。ラインがきれいなパンツに、防寒性だけではなく、デザインや軽量にこだわったアウター。
 素材も多岐に渡り、綿、麻、羊毛、絹。まだまだたくさんある。

 組み合わせは無限大。世界はいろいろな服であふれている。
 私は毎日服に囲まれて幸せだ。

 が、幸せ……とは思っていても、現実はそれだけではなく厳しいもの。

 私の勤務先はアパレル会社〝SPIN(スピン)〟。短大に通っているときに、〝SPIN〟のレディースブランドである〝woman crush(ウーマンクラッシュ)〟で店舗スタッフのアルバイトをしていた。

 短大卒業後、そのまま〝SPIN〟に就職し、三年で〝woman crush〟の店長を任された。さらに三年経ちスーパーバイザーに昇格し、今に至る。

 スーパーバイザーとは、ひとりで複数店舗を担当し、本部との間に立って売上向上を目指す、リーダー的なポジションだ。
 やりがいはあるけれど、責任も大きいし、いろいろと大変だ。

 オフィスについてすぐ、エレベーターに乗ろうとして走ったけれど、ギリギリのところで行ってしまった。

 私は深く息を吐いて、つぶやく。

「あー、もう。ついてない……」
「なに暗い顔してんの」

 背中越しに聞こえた声にはっとして、振り返る。

「おはよう、瀬越(せごし)

 くすくすと笑って挨拶をしたのは、一歳年上の井野(いの)裕司(ゆうじ)さん。

 私が店長として働いているとき、同じエリアの〝woman crush〟で彼もまた店長だった。
 度々ある店長会で、たまたま席が隣になって、それからはこうして顔を合わせたらよく話す。