まだ信じられない。

 織に『高校卒業後にファッションデザイナー専門学校へ行く』と聞いたときと同じくらいの大きな衝撃だ。

 でも、確かに織は器用で的確な作業をする……って、進学先に納得した。
 そう思えば、今回のことも冷静になれば、ありえないことではないのかもしれない。

 ショップに向かう準備をして、最後にスマホを見る。
 今朝の織からのメッセージには【わかった。終わったら連絡するね】と返した。

 なんかちょっと、緊張する。憧れだった人が、幼なじみだなんて。

 スマホをカバンに入れ、エレベーターホールへ向かう。
 扉が開くと井野さんが乗っていた。

 よくよく考えたら、昨日井野さんには織と面識があるって知られているんだ。絶対変に思ってるはず。

 私は気まずい思いを抱えつつ、エレベーターに乗り込んだ。

「あの、お疲れ様です」

 おずおずと当たり障りない挨拶だけを口にする。
 井野さんは「お疲れ」と返すだけ。

 その後、あっという間に一階まで降下し、私たちはエレベーターを降りた。

「あのさ。彼……佐久良 織って、瀬越の幼なじみだったの?」

 井野さんは低いトーンで言って、私に名刺を手渡す。

【Shiki Sakura,créateur d'Sakura】

 クリエイター……。ブランドロゴもちゃんと入っている。

 まだ実感なかったけれど、織はこんなすごい仕事を任されているんだ。