「しっ、織? どうしたの? 仕事中じゃ……」
『うん。でもアトリエにひとりだから。そろそろ届いてるかなあって思って』

 私は自然と瞼を閉じる。織の落ち着いた聞きやすい声。すごく久しぶり。

「エアメイルだよね? まさに今、見てたとこ。中身確認してびっくりした!」
『麻結のその反応をリアルに感じたくて電話したんだ』

 織は楽し気に笑ってそう言った。私は通話を続けながら、カレンダーで搭乗日を確認する。

「あっ。平日なんだ! わ~仕事休めるかなあ」

 一月中旬だからセールとか少しずつ落ち着いてきている時期とは思うけど……。

『大丈夫じゃない? ソフィーが話つけたって言ってたし』
「え? どういう意味?」
『あのドレスが仕上がって、ソフィーは撮影も済ませたんだろ? そのときに麻結んとこの上司に、麻結が結婚式に参加できるように取り計らってもらったらしいけど』

 織がさらりと答えた内容に目を剥く。

「で、でも部長からそういう話はまったく聞いてないし。大体なんでソフィアさんがそんなことできるの」
『あー、たぶん口止めしてるのかも。今回のチケットも麻結を驚かせたいって言ってたし。麻結の上司もソフィーがモデルしてくれた手前、ある程度の頼みは聞き入れようって思ったんじゃない?』

 ええ? そうだとしたらソフィアさんの力ってすごい……。

『てわけで、もう作業に戻るわ。俺も急ぎのものがあるから』
「そうなの? あまり無理しないでね」

 ほんの数分の電話だと、うれしい気持ちよりも寂しい気持ちのほうが勝っているかもしれない。

 名残惜しい思いで建前を口にすると、耳孔に柔らかな声音が響く。

『久々に麻結の声聞いたら元気出た』

 ぱっと織の穏やかな表情が浮かんだ。
 私は脳裏に浮かべた織を想うと、自然と頬が緩む。

「……私も」

 織は少しの間を空け、『じゃあ』と電話を切った。待ち受け画面に戻ってしまった手の中のスマホに目を落とし、唇をきゅっと引き結ぶ。

 数分声を聞いただけで、すぐにでも会いたくなっちゃう。

 私は織から届いたエアメイルを、ぎゅっと抱きしめた。