「ソフィー、また余計なことを!」
「Oh,sorry! ソフィー、もう行くからっ。マユ、またね」

 めずらしく織はちょっと慌てている感じがした。それに、うっすら耳も赤い気がする。

 織の照れた様子に、私まで伝染して顔が熱くなる。

「マユの繊細な女性らしいデザインにシキも仮仕立てに手を加えたんでしょ? ソフィーにとって最高のドレスね! Thank you!」

 ソフィアさんは私の頬にキスをして、颯爽とエレベーターに乗っていなくなった。
 織と再びふたりきりになって緊張する。

 織はエレベーターのボタンをもう一度押し、振り返らずに言った。

「くそ……。ソフィーのせいで台無しだ」

 すぐに次のエレベーターがやってきて、織は先に乗り込んだ。
 私も後を追うと、織が扉を閉める。

「呆れられるってわかってる。だけど不動の一番は麻結だから……譲れなかった」

 織は一瞬肩を竦めていたようだったが、すぐにまた堂々とこちらを向いた。彼の真っ直ぐな双眸に射られる。

「だってウエディングドレスなんて何度も着るものじゃないだろう。そんな特別なドレスなら、俺が作ったものを着せたい」

 ここまで想ってくれる相手はほかにいない。

 あまりに純粋で、深く透き通った強い気持ち。私は織のそれらをもう自然と受け止められる。

「ふふっ。本当、織って小さいときから見かけによらず頑固だよね。よっぽどじゃなきゃ自分の意見曲げないんだから」

 思わず吹き出した直後、エレベーターが二階を通過する。
 伏せていた瞼を押し上げると同時に、織が目の前にいるのに気づいた。

「え、ちょっ……し、き」

 戸惑う私の声ごと織が唇を覆う。

 扉が開くまでのひとときの出来事。
 時間にしてたった数秒なのに、私の心はいとも容易く織に溶かされた。