「できた!」

 織のひと声で私も瞬時に立ち上がる。すぐに織のそばに駆け寄ってドレスを見る。

「トルソーに着せてみないとわからないだろ。ちょっと待って」

 織はドレスを丁寧に扱い、ゆっくりとディスプレイ用のトルソーにドレスを着せていく。
 私は一瞬手伝おうかとも思ったけれど、織の持つドレスがとても神聖なものに見えて手を伸ばせなかった。

 織が最後にトレーンを整え、おもむろに指を離していく。
 ドレスが全貌を現し、私は思わず両手で口を覆った。

「……すごいね」

 本当に私の頭の中からそのまま飛び出してきたみたい。

 ワンショルダーのエンパイアライン。

 左足には大胆なスリットを入れるも、幾重にも重ねられたシフォンが上品さを演出している。
 これは、前にハンナさんがうちの店のディスプレイにアレンジを加えたときのアイデアを活かして考えた。

 どの角度から見ても新鮮で、楽しめるように……と。

 そして、なによりも背中から流れるようにトレーンへと続くフリル。
 その形は柔らかく軽やか。ソフィアさんがこれを着て歩けば、きっとふんわりと揺れて天使に変身するんだろう。

 イメージに差異はまったくなく、むしろ想像以上の出来栄え。

 素人の私のデザインを、佐渡さんと織と、ほかにも多くの人の力を借りて実現できた。
 こんなの……今まで体験したことのない感覚だ。

「えっ。麻結? どうした?」

 織が動揺したわけは、私が顔を隠して肩を震わせ始めたせい。
 だって、どうしても我慢できなかった。涙が止まらない。

「織……ありがとう。私、またひとつ夢を叶えてもらったよ」

 頬を濡らしたまま、満面の笑みで伝えると、織は黙って私を抱きしめた。