「初めまして。佐久良(さくら)と申します。今回は〝SPIN〟とご縁をいただき、光栄に思っております」

 姿勢を戻し、わずかに乱れた髪を整えるようにかきあげる。
 再び露わになった顔は、間違いなく織だ。

 私は驚き固まって瞬きも忘れていた。

 すると、織は私を見て、ほんの少し目じりを下げた。

「えー、佐久良さんは、専門学生のときにフランスへ留学し、今も世界的に有名なアパレルブランド〝アスピラスィオン〟などで活躍されているノエル・フルニエ氏の下で経験を積み、現在アスピラスィオン傘下の〝Sakura〟を全面的に任されています」

 フランスに留学したあとのことは、詳しく教えてくれなかった。

 もっとも、私も根掘り葉掘り聞きだしたりはしなかった。
 織が話したいときに聞けたら、それでいいと思って。

 まさか織が、あの〝Sakura〟の指揮を執っているだなんて。

〝Sakura〟の取材関連の記事は、ほとんど商品の写真しか載っていない。
 そんな中、ひとつだけ関係者として掲載されていた記事を見つけたことがある。

 そこで紹介されていたのは、同じ年齢くらいの女性。

 フランスで代々仕立屋をしている家系に生まれ、祖母が日本人だと彼女がインタビューに答えているのを読んだ。

 だから私はすっかり、彼女が実質〝Sakura〟のデザイナー兼経営者だと思い込んでいた。〝Sakura〟というネーミングも、彼女が日本と(ゆかり)があるためなのだろう、と。