「OK! じゃあシキがダメなら、この子にお願いするわ」
「は……?」
「このオフィス、アパレルメーカーね? アナタ、シキと一緒に仕事してるデザイナー。だってその本見たことある。みんな絵を描くの」

 ソフィアさんは人形のような小さな顔に、にっこりと笑みを作って私のカバンを指さした。

 絵を描く……? あっ!

 肩にかけたカバンの中に視線を落とすと、スケッチブックの表紙がちらりと見えた。
 なんで!と慌てふためき、咄嗟にカバンの口を脇で挟んだ。

 そうか。この間、織と話をしていたときに出しっぱなしにしていて、知らないうちに資料に紛れちゃってたんだ。

「シキが『特別』言うくらいだから、この子、なにか魅力ある」
「ソフィー、なにを」
「この子がシキよりいいドレス作ったならソフィーが着る。それはソフィーが納得したとなるし、シキはドレスを作らなくていい。Good idea!」

 ソフィアさんの提案を聞き、呆気にとられる。

 私が彼女のウエディングドレスをデザイン? できるはずがない。

 百歩譲って私が考えたウエディングドレスを気に入ったとして、それを着て並ぶ相手に織を求めてるだなんて。
 ちょっと考えただけで理性が飛びそうだ。

「勘違いだ! 麻結は」
「面白そうね」

 緊迫する私たちに向かって、くすっと笑い声交じりに発したのはハンナさん。私は目を剥くだけで、この状況に頭がついていかない。

「ハンナ!」
「マユがデザインを描けるなんて。ワタシも興味あるわ。それに口出ししないほうがいいんじゃない? どうせシキは描くつもりないんでしょう? だったら可愛い彼女に任せてみたら?」

 ハンナさんがソフィアさんの提案に加勢し始めると、織も動揺を隠せなくなったらしい。
 一瞬、言葉を失い、瞬きも忘れて固まっている。