「まあね。それより、そっちはなんで……まさか」

 ソフィアさんをジロジロと見ていたハンナさんが、はっとなにかに気づく。その反応にソフィアさんがニコッと笑って織に背を向け、ハンナさんの腕に絡みついた。

 ふたりは隣同士でかなり密着し、私のほうに顔を向けた体勢だ。
 つい気になって彼女たちを注視する。

 すると、ソフィアさんがハンナさんに耳打ちした。

「ソフィー、シキとウエディングドレス着るため日本まで来たよ」

 織には届いていないみたいだけど、私には聞こえてきた。

 唖然として無邪気な笑みを浮かべるソフィアさんを見る。ハンナさんも目を丸くしていて、すぐに言葉が出ないようだった。

「なにをこそこそ話してるんだよ」

 織が呆れ顔で言った直後、私はハンナさんと視線がぶつかった。
 彼女はすぐにふいっとそっぽを向き、淡々と答える。

「この間、メッセージの中にドレスのオーダーもあったって言ったでしょ。あれ、ソフィアからウエディングドレスのオーダーだったの」

 ハンナさんの言葉に、いっそう不安感を煽られる。

「え? ソフィーが?」
「Yes!  だってソフィー約束した! 会う前にメッセージしておいたよ。日本に来る思わなかったけど」

 約束……。ソフィアさんは『シキとウエディングドレスを着る』って言ってた。そのために、わざわざ日本まで追いかけてくるほどの感情があるってことだ。

 立っている感覚が変になっていく。手は冷たいのに、異常に汗をかいている。

 織の横にいるソフィアさんを眺めると、彼女の魅力に次々と気づかされる。

 艶やかな髪、小さな頭、魅惑的な唇。透き通るほど白い肌に、均整がとれた四肢。
 姿勢も美しく、なにより有名な人なのに威圧感や壁を感じさせない性格。

 こんなにも完璧な女性に対抗する術すらない。

 勝手に完膚なきまで打ちのめされていたら、織が素っ気なく返した。

「約束なんてしてないだろ。あれはソフィーが一方的に……」
「イヤよ! ソフィー、シキがいいって言った。ずっと心に決めてたんだもん」

 大人っぽい表情もするかと思えば、今度は子どもっぽく振る舞う。

 くるくると変わるソフィアさんを茫然と見つめていた。