「ソ、ソフィー?」

 織は困惑しつつも取り乱しはしていない。加えて、彼女の名前を口にしたのを耳にして、知り合いなんだと察した。

「どうして日本に?」
「シキがいるって聞いたです」

 ソフィーと呼ばれた女性は織の腕に絡みついて、溢れるばかりの笑顔を見せる。

 この距離感といいさっきのキスといい、もやもやとしてしまう。織が嫌がったりもせず受け入れているからなおさらだ。

 だけど、海外ではスキンシップは当たり前だろうし、これくらいは普通のはず。

「だとしたら、相変わらずクレイジーだな」
「Thank you」

 再会に盛り上がるふたりの横で置いてけぼりの私に、織が手を伸ばす。

「ソフィー。彼女は俺の大切な人、麻結だよ。麻結、こっちはモデルを中心として海外で活躍中のソフィア。今は二十三歳だったかな。パリコレで知り合ったんだ」

 パリコレ!? そう言われたら、なんとなくテレビか雑誌で見たことがあったかもしれない。

「は、はじめまして」

 そんなすごい相手に紹介され、おどおどと頭を下げる。織がせっかく『大切な人』と言ってくれたのに、織の発言には喜ぶ間もなく度肝を抜いた。

 だって、目の前の人がパリコレモデルっていうのもさることながら、織ってそんな大きな舞台でも活躍していた人間なの?
 自慢してもいいレベルなのに、私にはずっとひとことも言わなかった。

「ソフィアです。Nice to meet you! ソフィーと呼んで」

 茫然としていた私は反応が遅くなり、手を差し出すのが遅れた。しかし、ソフィアさんのほうから私の手を両手で握ると、ぶんぶんと上下に振った。

 慣れない挨拶にしどろもどろになり、頭が軽くパニックになる。