翌日からは、また私の狭いアパートに戻って生活していた。

 週明けの月曜、織が無茶を言って結局一緒に出社する羽目になった。

 私としては、社内の人間に私たちの関係を知られたら大騒ぎになるかと思い、あえて目立つ行動はしたくなかったんだけど。

「大丈夫だって。途中で会いました、って言えばいい話だろ。そもそも、本当のことを話したっていい」
「いや、さすがに新店オープン直前にそれは……」

 苦笑して返しつつ、ふと頭を過る。

 私たちのことをオフィスで言うも言わないも、織は今回の仕事が終わればフランスに戻るはず。
 だったら、短期滞在だしわざわざ説明することでもない。

 ……っていうか、織が行っちゃったら……当然遠距離恋になるわけだよね。

 織が一時帰国してから毎日目まぐるしくて、そこまで考えられなかった。

 これまで離れていても頻繁に連絡は取り合っていた。だけど、あくまで〝幼なじみとして〟。
 恋人となった今、単純に同じスタンスで生活をしていて、私は不安も不満も出ないんだろうか。

 ジッと織を見る。私の視線に気づいた織が、首を傾げて微笑んだ。

「どうかした?」
「……あのね」
「シキ!」

 高い声がして振り返ると同時に、見知らぬ女性が織の頬にキスをしているのを目の当たりにする。

 私たちの間に割って入ってきたのは、すらりとした長身の女性。
 ちょっとイントネーションに違和感のある日本語。一瞬、ハンナさんかと思ったけれど、背の高さとブロンドのロングヘアで別人だとすぐにわかった。