「だって現に織の服を着たいって思っている女性がたくさんいるんでしょう? 織の生み出す作品はそれだけ多くの人に求められていて、愛されてるんだよ」

 それって、とてもすごいこと。

 たくさんの人たちが魅入られるわけは、織の才能。そして、それ以上の努力があるからだ。

 織が立っている場所は、誰でも到達できるところではない。
 稀有な存在だからこそ、織にはできれば織にしか成せないことをしてほしいと願う。

「本当に気が進まないなら無理強いはさせられないけど。ただ、私ひとりじゃ身体が足りないと思うな。織はこれからもたくさん服を作るんだろうから」
「……考えておくよ」

 織は睫毛を伏せ、ぽつりと答えた。

「うん」

 私の想いを少しでも汲んでくれたと感じ、笑みが零れる。

 きっと、すぐに考え方が変わらなくても、織の視野は徐々に広がっていく。だって、時間はまだまだあるんだから。

「まあ、麻結を手に入れてから、これまで以上にイマジネーションがあふれてくるし……機会があれば」
「機会なんてもうあるでしょ。お客さんと繋がるSakuraっていう素敵なきっかけが」

 私が返すと織は眉尻を下げ、「ふ」と笑った。

 織のその笑顔が好き。

 私たちは自然とお互いに見つめ合い、微笑んでいた。すると、横から低い声が割り込んでくる。

「……によ。ワタシが毎日のように説得しても、全然聞く耳も持たなかったくせに!」

 ハンナさんは真っ赤な顔で、綺麗なネイルを施した爪を手のひらに食い込ませている。
 かける言葉が見つからず黙っていたら、織が穏やかな口調で語りかける。

「ごめん、ハンナ。でも一緒に仕事をしていたんだ。俺の世界がなにで回っていたか、とっくにわかっていただろ?」

 織はそういうなり、私の肩を抱き寄せた。