「そう。その表情が俺の原動力」

 人目もはばからず、織は私の顔を包み込んで極上の笑みを見せた。

「シキ!」
「ハンナ。きみが俺を買ってくれているのはうれしいけど、俺は作りたいものしか作らない主義なんだ。きみはそんな俺を支持したから、Sakuraに来たんじゃないのか」

 彼女をすぐさま制止する織の反論に、内心首を傾げる。

 一般的な感覚と比べ、偏った価値観を持つ織に同調してSakuraに……?

「きみの家が代々受け継いでいた仕立屋からファストファッションの会社にシフトチェンジして、オーダーメイドにこだわりを持っていたきみは、どうしても納得ができなくて、俺のところへきたんだろう」

 言い返せないハンナさんを凝視する。

 そんな経緯があったんだ。

 彼女もまた、オーダーメイドに懸ける想いがあると知り、ただ気が強い女性なわけではなかったのだと印象が変わった。
 信念や守りたいものがあって、織にぶつかっていっているんだ。

「だけど! シキが見てる世界は、ほかの世界的トップデザイナーと比較して極端に狭すぎる!」
「ほかなんてどうでもいい。俺は誰かと競ってるわけじゃない」

 取り乱したハンナさんの言い分にも、織は厳しい声音で一蹴する。あまりに鋭い表情に、ハンナさんももうなにも返せないみたいだ。

 強張った空気の中、私は織と向き合って口を開く。

「織……。だけど、私も勿体ないなあって思うよ」
「勿体ない?」

 織は感情の切り替えがまだできていないようで、私に対しても眉間にしわを寄せて聞き返してきた。

 ハンナさんも見守る中、私はゆっくりうなずく。