私が不満を露わにしても、彼女は涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいる。

 約十分後、息を切らした織がやってきた。

「麻結! いったいなにしてるんだよ。ハンナ、説明しろ」

 織は私を見て少し安堵した表情を浮かべるのも束の間、厳しい目つきでハンナさんに噛みつく。それでもやはり、ハンナさんは動揺せずにさらりと返した。

「さっき電話でも言ったでしょ。仕事の話だって。とりあえず座ったら?」
「だとしたら、麻結は関係ないはずだ」

 ハンナさんが席に促すのも聞かず、織は立ったまま即答する。
 ふたりの応酬を固唾を呑んでみていたら、ハンナさんの色素の薄い瞳がこちらに向けられた。

「関係あるわよね? 麻結」

 彼女の鋭い視線にピンとくる。以前から、織を説得してって言われていた件だ。

「今日、オフィスのメールがいろいろと転送されてきたわ。新規オーダーも入ってる。中にはシキにドレスを……って依頼もいまだにあった」

 ハンナさんが矢継ぎ早に用件を言うと、織は辟易した様子で頭を抱える。

 レディースのオーダー……。織が受け付けていないとわかっていても、次々に来るんだ。

「どのみち、やることはたくさんあるわ。悠長に恋人ごっこを楽しんでる暇はないの」

 恋人ごっこ……。確かに傍目からみたら、再会して数日で一緒に暮らしたりして、嘲笑する行動かもしれない。でも、他人にバカにされる言い方をされる筋合いはない。

 彼女はぎゅっと口を一文字に結ぶ私をちらっと一瞥し、ルームキーをちらつかせた。

「シキ。あのあと、ここの部屋を取り直しているわ。すぐ戻ってきて。向こうでは朝まで一緒にデザイン描いてたじゃない。こっちにきてちゃんと仕事してるの?」