私はベッドの中で織に背を向けて横になっていた。

 さっきまでのことを思い出すだけで顔から火が出そう。恥ずかしすぎて、織と向かい合うのもできずにいた。

 織が背中越しに話し始める。

「麻結、俺と比べて相応な力がないって言ってたね」

 掘り返された話題につい嘲笑した。

「井野さんにカッコつけたこと言ったくせに笑えるよね。私もどっかで有名デザイナーの織と比べて差を感じてるなんて」

 それは織だけでなく、ハンナさんに対しても。

 いくら頭でわかっていても、焦る気持ちはごまかせなかった。たぶん、織を特別だと認識したから過剰に意識しちゃうんだと思う。

 情けないやらあきれるやらで振り返れずにいると、後ろから抱きしめられた。

「俺たちデザイナーが作った服を、麻結は心を込めて全力で売ってくれてるんだろ。俺にはそういう力はない。俺たちは常に支え合ってる関係だ」

 私は胸の前で交差する織の腕に、そっと手を添える。

「人によっては地味な仕事だって思うやつもいるかもしれない。けど、俺は麻結のポジションはすごいと思うし、助けられてるって感じるよ。売る人がいて、俺たちデザイナーはまた新しい服を作れるんだから」
「そう……かな。でも織はやっぱり特殊でしょ。直接お客さんからオーダーを頼まれるんだから。すごいよ」
「俺が今そうなったのは、麻結が理由だって言ってるだろ」

 凛とした声にドキリとした。

 再会して、何度も同じセリフを言われた。
 そのたびに、自信がなくて受け止めきれなくて逃げていた。

 ハンナさんに私が足枷になっているって責められて、余計に落ち込む気持ちに拍車がかかった。

 でも織はたった一度でも表情を曇らせたりしなかった。
 澄んだ双眸でまっすぐ私と向き合って……私の夢を真剣に想っていたのだと伝えてくれていた。

「だから麻結が進む道に迷ったり、わからなくなったりしたんなら、今度は麻結が俺についてきたらいい」

 ゆっくり後ろを振り返る。
 織と久方ぶりに視線を合わせてみたら、やっぱり純粋で綺麗な瞳をしていた。

「俺が何度でも思い出させてやる。麻結の原点……ただ服が好きで仕方がないっていう気持ちを」

 そうだった。難しいこととか取っ払って、残るものだけを見つめなおせばいい。私は誰かに勝ちたいわけでも、実力を認めてもらいたいわけでもない。

 服が好き。それにかかわる今の仕事が好き。

「なんか、すっとした」

 胸のつかえがとれた。こんなふうに、余計な感情に流され沈んだ私を簡単に引き上げてくれるのは織しかいない。

 私よりも私をわかってくれていそうな彼だけ――。