「…はぁ、もぉ疲れちゃったよ…」
 わたしは半泣きで、どうしたらいいかわからずに、真の家の前にいた。

 涼介と別れて2ヶ月くらいの間に、2回涼介から電話があり、わたしは彼氏もいなかったので、2回とも会いに行った。

 その度に復縁をせまられ、なぜか最後はヤッて別れていた。すると、2度目の逢瀬の翌日、涼介のお母さんが来て、涼介とは連絡を取らないで欲しいとお願いに来たのだ。わたしは会わないことを約束して、帰ってもらった。

 その日の夜、わたしが入れ違いに台所に入ったのに、上の姉が電気を消してきた。わたしはカチンときて、姉に抗議する。

「まだ中におろー!目見えんと?」
姉はキレイに、無視を決め込む。頭にきたわたしは、
「口で言えんなら手紙でもいいけ、気に入らんこと教えてよ!意味がわからんし。」
と言い放った。

 姉は無言で2階に行った。
 わたしもイライラしながら部屋へ行き、ベッドに潜り込んだ。


 翌朝、枕元に見慣れない封筒を見つけた。中には姉の字でビッシリと書かれた2枚の紙。
読みながらわたしの中で何かが切れる音がした。

 そこには、普段何も言わない姉の本音が包み隠さず書いてあった。わたしが男に媚びているようにしか見ていないこと、病気だと言うならおとなしく薬を飲んで早く治せ!
リスカに関しても、ただの当て付けにしか見えなくて不愉快だ…と。わたしをキレさせたのは最後の1文。

『あなたが少し改善したところで、わたしはあなたを認めるとは思えない。』
(ずいぶん昔の話だからちょっと違うかも。)
 わたしのすべてを否定されたような気がして、それでも、抑えようと、カッターナイフを自分の腕に叩きつける。血がポタポタと落ちる。落ち着けない。

 わたしは3回カッターナイフを叩きつけたが、怒りは治まらず、血まみれの左腕はそのままに、部屋にある一番固そうなジンの瓶を手に取って、姉の寝室に向かった。

 たぬき寝入りだとわかっていたので、
「お前が切られんやっただけありがたいと思えよ!」
言うが早いか、わたしはジンの瓶を思いっきり振り下ろす。…が、姉は布団で防ぐ。

 わたしは軽く舌打ちをして、
「ちょっと!殺す気!?」
と、叫ぶ姉を
「そのつもりて!お前もう死ねや!」
と、階段まで押していく。突き落とすつもりだった。しかし、怒鳴り合いを聞きつけた母が止めに入る。

 わたしは戦意喪失して、
「煙草吸ってくる。そいつ手当てしよき。」
と言って、血まみれの腕はそのままに、外で煙草をふかす。通りすがりのババァがジロジロ見ていく。

「……ハッ………」
失笑がもれる。わたしは、一瞬上を見上げる。
泣きそうなときのわたしのクセだった。涙がひいたのを確認して家に入った。

 母は、父に電話をしていた。
「お父さん!2階が血まみれなの!帰って来て!!」
まーた怒られる…。
わたしは、覚悟を決めながら、手当を受ける。

 姉はラッキーだったようで、目にジンが入った程度ですんだ。

 父は帰って来るなり、2階のわたしの部屋に直行だった。
「なんでお前はそんなことばっかりするんか!」
 怒る父に嫌気が差し、わたしはとりあえず謝った。
「ごめんなさい!姉ちゃんにあんなことして…」
 すると、父は更に怒った。
「そのことやない!お前の腕のことや!」 

 わたしの頭は理解できなかった。なんで自分にしたことで怒られてんの?
「とりあえずごめんなさい。でも、なんで自分傷つけて怒られてんのかわからん。あたしが助けてって言ったとき見捨てたよね?あれって、あたしにはみんな何してもいいってことやろ?なのに、あたしはあたしも誰も傷つけちゃいかんのん?ごめん!言いよることが理解できん!」


 そう言って外に飛び出して、今、真の家の前にいる。手当ての後に着替えたし、化粧は電車の中でしたし、おかしなとこはない。腕の包帯以外は………。

 でも、突然来て迷惑だよね?もう会わないって決めてたし…。んー…帰ろ!
 そう思って踵を返したときだった。

……真……。

仕事上がりの真と出くわす。
「……愁……ちゃん……?」